皇位継承議論を封印するな 危機感がない政府の報告書;毎日ディジタルから引用しています。

皇位継承議論を封印するな 危機感がない政府の報告書

野田佳彦・元首相

野田佳彦氏=幾島健太郎撮影
野田佳彦氏=幾島健太郎撮影

国家千年の計

 安定的な皇位継承をいかに実現するか――これは日本で最大の懸案事項の一つであり、私は立憲民主党の検討委員会委員長として危機感を持って真摯(しんし)に取り組んでいく覚悟だ。日本の根幹であり、この問題を議論することは「国家百年」どころか「国家千年の計」といえる。

 その議論の基になる有識者会議の報告書が今年1月、政府から国会に示された。天皇退位に関する皇室典範特例法の付帯決議に基づいて議論されたもので、付帯決議で求めた「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」についての検討結果が書かれているはずだった。しかし、その中身は疑問だらけであり、国会を軽視したものだったと言わざるを得ない。

ご成年にあたり記者会見を行われる天皇、皇后両陛下の長女、愛子さま=皇居・御所「大広間」で2022年3月17日(代表撮影)
ご成年にあたり記者会見を行われる天皇、皇后両陛下の長女、愛子さま=皇居・御所「大広間」で2022年3月17日(代表撮影)

遅すぎる、危機感がない

 そもそも報告が遅すぎる。特例法は2017年に制定され、19年4月30日に施行された。しかし、有識者会議が設置されたのは21年3月と施行から既に約2年も経過してからだった。付帯決議には「本法施行後速やかに」と記載されているのにもかかわらずだ。

 しかも、安定的な皇位継承については「機が熟していない」として回答していない。遅い上にさらに先送りしてしまったのだ。これは「皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題」とした付帯決議を真っ向から否定するものであり、国会軽視も甚だしい。

 天皇陛下の次の世代で皇位継承権を持つのは今春、高校に進学された悠仁(ひさひと)さま、お一人だ。16年にはその悠仁さまが乗っていたワゴン車が乗用車に追突するという事故が起きた。また、19年には、中学校で悠仁さまの教室の机に刃物2本が置かれているのが見つかる事件も起きている。幸い、いずれも悠仁さまはご無事だったが、このような状況で皇位継承問題を棚上げするとは考えられない。次世代の皇位継承権がたった1人しかいないことに対する危機感がなさ過ぎる。

 現在の皇室典範のままでは、悠仁さまがご結婚し男児を授からなければ、皇統が断絶してしまう。悠仁さまはもちろんのこと、悠仁さまに嫁ぐ妃殿下の精神的負担は計り知れない。上皇后さまも皇后さまも大変苦しい思いをされたと思うが、それ以上の重圧となるだろう。

 さらにご結婚後は、皇統の存続がかかるという想像を絶するプレッシャーの中、公務という激務もこなさなければならない。それに耐えられる女性がいるのか。そのような皇室に自分の娘を嫁がせようとする親御さんがいるのか。ご結婚一つとってもハードルが高くなっている。

56歳の誕生日を前に、赤坂御用地を散策される秋篠宮さまと次女佳子さま、長男悠仁さま=東京都港区で2021年11月12日(宮内庁提供)
56歳の誕生日を前に、赤坂御用地を散策される秋篠宮さまと次女佳子さま、長男悠仁さま=東京都港区で2021年11月12日(宮内庁提供)

「女系天皇」をなくすための時間稼ぎ?

 私が首相を務めているとき、皇族の減少対策として女性皇族が結婚後も皇室に残れるようにする「女性宮家」創設を検討したが、政権交代があり、論点整理までしか進めなかった。

 子も皇族の身分となる女性宮家を想定していたため、「女系天皇につながる」として男系の皇統維持を主張する人々から強い反対を受けており、自民政権下では黙殺されてしまった。

 女性宮家創設により伝統を大きく変えてしまう可能性があり、反対する考え方があるのは理解できる。しかし、最も重要なのは皇統を途絶えさせないことだ。それを実現するためには、あらゆる選択肢を考え検討して議論していく必要がある。合理的に考え、側室制度がない時代に男系男子を継続させていくことが科学的に可能なのかという点も含め、検討していかなければならない。

 日本の根幹に関わる喫緊の課題にもかかわらず、皇位継承の議論が棚上げされるのは「女系天皇の選択肢をなくすための時間稼ぎではないか」とうがってみてしまう。現行制度のままであれば、女性皇族の方はご結婚後、民間人となられる。時間が経過すればするほど皇族女性が減少し、女性宮家の創設は難しくなるからだ。

 報告書は付帯決議の「女性宮家の創設等」を受ける形で、皇族数確保の具体的方策として具体案を示している。そのうちの一つは女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案であった。しかし、私の政権下での議論と違い、配偶者と子は一般国民のままにするという。つまり、子に皇位継承資格はないということになる。

 その一方で、皇統に属する男系男子の子孫の方々を養子として皇族に迎えるもう一つの案では、養子となる本人には皇位継承資格がないとしつつ、お子さまが生まれた場合の資格の有無についての記載は無い。

 これらに関し、戦後、皇族から離脱したいわゆる「旧宮家」の子孫に皇位継承資格を認めようとしているのではないかとの見方がある。旧宮家の男子を養子で皇族に復活させ、その子どもに皇位継承資格を持たせることで「男系男子」を維持していくという。

 しかし、旧宮家が皇族だったのは数世代も前のことだ。しかも次稿で詳しく論考するが、配偶者や子が一般国民のまま女性皇族と婚姻する案や養子縁組による皇族復帰案は、憲法との整合性への疑義や違憲の可能性が指摘されている。多くの問題が横たわっており、簡単に認められるような案ではない。

立憲民主党の安定的な皇位継承に関する検討委員会に臨む委員長の野田佳彦元首相(右)=国会内で2022年1月14日、竹内幹撮影
立憲民主党の安定的な皇位継承に関する検討委員会に臨む委員長の野田佳彦元首相(右)=国会内で2022年1月14日、竹内幹撮影

早急に活発な議論を

 報告書は、皇室を巡る課題について「政争の対象」としないようし「静ひつな環境の中で落ち着いた検討」をするよう求めており、まるで議論を封印しようとしているように感じる。

 しかし、皇位継承を巡る課題は国家体制の根幹の問題だ。党利党略で議論しようとは誰も思わないし、さまざまな考え方について大いに議論しなければ、国民が納得する考え方・制度は生まれるはずがない。少なくとも女性天皇、女系天皇という選択肢も排除してはならないだろう。残された時間は少なく、今すぐにでも議論を活発化すべきだ。

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