鴻上尚史さんが見た「マスクと日本人」 感染対策とは別の新たな役割:朝日ディジタルから引用して居ます。

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鴻上尚史さん=2018年8月17日午後4時3分、東京都港区、池永牧子撮影

鴻上尚史さんが見た「マスクと日本人」 感染対策とは別の新たな役割

聞き手・長野佑介
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 新型コロナウイルスの流行が始まって3年目。人との距離が2メートル以上あれば、多くの場合はマスクを外せる、との基準を政府が示しました。感染リスクに応じた対策緩和の機運が高まる中、コロナ禍における日本社会の空気についてメディアを通じて発信してきた劇作家の鴻上尚史さんは「日本人にとってマスクは感染対策とは別の意味を持っており、手放すのは簡単ではない」と指摘します。詳しく聞きました。

鴻上尚史さん

作家・演出家。1958年生まれ。大学在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。主な著書は「『空気』と『世間』」、「『空気』を読んでも従わない」など。コロナ禍直後の2020年には評論家の佐藤直樹さんと共著で「同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか」を出版した。

「世間」だけ意識する文化が影響

――この間、日本のマスク着用率の高さをどう見ていますか。

 欧米に比べれば、日本のマスクへの抵抗感は少なかった。それには日本特有とも言える文化が色濃く影響しています。

 私なりの言葉で言えば、日本人が家族や会社、学校、となり近所といった身近な人でつくる「世間」しか意識せずに生きていることが大きいと思います。

――どういうことでしょうか。

ここから続き

 たとえば、欧米人の多くはエレベーターにいて「知らない人」が入ってくれば「ハロー」とあいさつしたり、目と目を合わせたり、ほほ笑みあったりします。

 でも、日本人は目も合わさずに数字だけを見つめている人が多い気がします。あなたにも心当たりはありませんか?

――そうかもしれません。

 日本人は普段、接することがない「知らない人」とのコミュニケーションが苦手なんです。身近な人とは濃密に接したい気持ちがある一方で、そうでない関係の薄い人との接触は避けたい。コロナ禍でマスクを着けるようになったことでこうした「知らない人」とソフトに遮断されることに、安心感を持っている人も多いのではないでしょうか。

 さらに知らない人との関係が薄れ、身近な人とでつくる「世間」のつながりが強まっていくことで、「みんなと違うことをするな」という同調圧力が高まることも大きい。

 コロナ禍では営業する飲食店をネット上でさらしたり、マスクを着けていない人を非難したりするいわゆる「自粛警察」が登場し、「世間」が凶暴化しました。改めて多くの人が「世間」が牙をむいたら怖いということを実感したのではないでしょうか。

――マスクが定着した背景にはコロナ感染への恐れだけではなく、「世間」から攻撃されることへの恐れもあったということですね。

「とりあえず着ける」という思考停止

 マスクは二重の意味で自分を守ってくれる存在になったのだと思います。「ウイルスから身を守ってくれる」という本来の役割に加え、「知らない人たちと凶暴化した世間から守ってくれる」ということに多くの人が気付いたのではないでしょうか。

 たとえ屋外で距離があったとしても、マスクをしていなかったら誰に何を言われるかわからない。だったらとりあえず着けておこう。そうすれば問題は起きない、という思考停止が起きていたところはあったと思います。

 こういった非常時に同調圧力が高まりやすいことは歴史も証明しています。わたしがよく挙げるのが1940年にぜいたく品を追放する「七・七禁令」という省令が出たときのことです。

 東京の街には「日本人ならぜいたくは出来ない筈(はず)だ!」などと書かれた看板が並びました。こんなに同調圧力を端的に表現する標語はありません。日本人であれば従いましょう、と。時代が変わった今もこうした空気感は何ら変わっていないと感じます。

――政府の発表もありましたが、今後、日本社会とマスクの関係はどうなっていくのでしょうか。

 感染対策として始まった習慣だったはずなのに「着けてみると周りからのバリアーになる」と感じている人も多いはずです。コロナ禍を通じて「知らない人とうっとうしい世間」を遮断できるツールとしてその便利さを知った日本人がすぐに手放せるのかどうか。この2年余りで獲得した「快適さ」を手放せない人も一定程度、残るような気もしています。

 ただ「世間」では「みんな同じ」がルール。周りを見ながら着ける時も外すときも「右にならえ」で雪崩を打っていくことも想像できます。それでも、コロナ以前よりはマスクを着けたままの人が増えると思いますが。(聞き手・長野佑介)

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