バイデン氏の思惑に乗った尹大統領のお膳立て 2大国の間で悩む韓国:朝日ディジタルから引用して居ます。

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韓国・ソウルで21日、共同会見にのぞむ米国のバイデン大統領(左)と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領=AP

バイデン氏の思惑に乗った尹大統領のお膳立て 2大国の間で悩む韓国

鈴木拓也、園田耕司=ソウル、榊原謙 ソウル=園田耕司
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 中国との対立を念頭に韓国を自国側により引き寄せたい米国と、北朝鮮核兵器の脅威を前に米国の抑止力に頼りたい韓国。21日のバイデン米大統領と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の首脳会談は、両国の思惑が交錯しつつも、同盟関係の強化が演出されることになった。そして会談では、バイデン氏が22日から訪れる日本についても言及があった。

 「昨日、世界で最も先進的な半導体を生産している工場を訪問した」。首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領が真っ先に触れたのは前日の視察のことだった。

 韓国入りしてすぐに向かったサムスン電子の半導体工場。会見では、同社が170億ドル(約2兆1748億円)以上をかけて、米国に新工場をつくる予定であることにも謝意を示した。

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 バイデン氏の訪韓の目的の一つが、米国市場と「半導体大国」の韓国をつなぐサプライチェーン(供給網)の強化だった。あらゆるハイテク製品に欠かせない半導体は、需要の高まりで世界的な品薄が続く。米国にとってより多くの供給元を確保することは最優先の課題だが、受託生産の世界シェアの66%を占める台湾は中国との緊張関係を抱える。安定的な確保のためにも、台湾に次ぐ生産量の韓国の協力は欠かせない。

 半導体だけではない。今回、両首脳は供給網の強化に向けた閣僚級の戦略対話を設けることで合意。この対話では、世界的な開発競争が進む電気自動車(EV)や蓄電池のほか、EVなどのモーターの生産に欠かせないながら中国が産出の多くを握っているレアアース(希土類)も扱う。

 中国との対立が深まる中、中国に頼らない様々な供給網の整備を急ぐ米国の意思が反映されている。

 米国の視点からはこれまで、韓国が同じ同盟国の日本や豪州などとは違って、対中国をにらんだインド太平洋戦略への協力に消極的な存在と映ってきた。今回の合意を受け、バイデン氏は会見で「米韓関係はかつてないほど緊密だ」と満足げに語った。

 一方の尹氏も、バイデン氏の思惑に乗る格好でお膳立てをした。バイデン氏が韓国へ来る前に、米国の主導で立ち上げられるインド太平洋経済枠組み(IPEF)への参加を表明。半導体工場への視察でも、自ら出迎えに行った。

 韓国は本来は、対中国について米国と温度差を抱えざるを得ない立場だ。中国は隣国であり、最大の貿易相手国。そして、安全保障上の最大の懸念となっている北朝鮮の後ろ盾の国でもある。いたずらに摩擦は起こしたくない。

 尹氏は21日の会見でも、中国が懸念を示すIPEFについて「韓国、米国のように自由人権という民主主義という普遍的価値を共有しない国家だとしても、あえて排除するわけではない」として配慮を見せた。

 ただ、その一方で、まずは「価値を共有する国家同士が緊密に連帯していくことにした」と述べて一線を引いた。終始、中国を刺激しないことに神経を使い続けた文在寅(ムンジェイン)前政権からの姿勢の転換と言える。

 尹氏がバイデン氏の意向を最大限にくみ取ったのは、米国に北朝鮮への関与を強めてほしいからだ。

 核・ミサイル開発を進める北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記は、軍創建90周年の4月25日の演説で、ついに核兵器による先制攻撃に言及した。尹氏が今回、最も重視したのは、米国による安全保障上の「拡大抑止」の提供に念を押すことだった。

 「拡大抑止」は、他国に米国の核の存在などを意識させ、韓国への攻撃を思いとどまらせることを意味する。首脳会談でその成果を得た尹氏は、会見で「強力な北朝鮮への抑止力が何より重要だということに共感し、堅固な対韓防衛のための『拡大抑止』を確認してくれた」とバイデン氏に謝意を示した。

 共同声明では、「米国第一」を掲げたトランプ前政権と、北朝鮮に融和的だった文前政権の時代に縮小した米韓合同演習を、再び拡大する方針も盛り込まれた。尹氏は会見で、今後の演習に、米軍の戦略爆撃機原子力空母などを意味する「戦略資産」が参加する可能性までも示唆した。

 バイデン政権も、北朝鮮が3月に、18年以降は自制していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を宣言したことで、対話路線から圧力路線へと転換しつつある。ICBMは米国本土を射程に収めることから、米国にとってレッドライン(越えてはいけない一線)だ。合同軍事演習の拡大は転換の意思表示と言える。

 尹氏は会見で、こう述べて胸を張った。「自由民主主義と人権という普遍的価値を共有する国家の連帯。韓米同盟はその模範だ」(鈴木拓也、園田耕司=ソウル、榊原謙)

日韓関係悪化「米国の利益にならない」

 首脳会談では、懸案となっている日韓関係についても協議された。

 バイデン氏は会談後の記者会見で、日韓関係について尹氏と協議したと認め、「東京でも同様に議論する」と述べた。さらに、「(日米韓)3カ国が、経済・軍事的に緊密な関係をもつことは極めて重要だ」と指摘し、日韓を含むインド太平洋の民主主義国家がもっと協力し合う必要があると語った。会談後の共同声明でも、「両首脳が日米韓3カ国の協力の重要性を強調した」と明記された。

 米政権にとって、中国や北朝鮮に対峙(たいじ)しなければいけない中、同盟国同士の日韓両国が歴史問題などで険悪な関係にあることは頭痛の種だ。元米国務省高官は「日米韓安保体制の弱体化をさらけ出している」と話す。2月に発表したインド太平洋戦略でも、米国が関係強化を促す必要のある相手として日韓両国に言及した。

 米政権高官は21日、首脳会談前のオンライン記者会見で、「米国は日韓関係の改善を強く支持する」と表明。さらに、日韓関係が悪化している状況は「米国の利益にはならない」と明言し、日韓両国が関係改善に向けた取り組みを行うことに強い期待感を示した。

 尹氏も、前政権とは異なり、日韓関係の改善と日米韓の安全保障の協力強化が急務との姿勢を示している。米国は尹氏側に大統領就任前から関係改善を急ぐよう促し、4月末の日本への政策代表団の派遣の道筋をつけた。日本も尹氏の就任式に岸田文雄首相の親書を届けるまでになった。

 しかし、特に大きな懸案となっている徴用工訴訟をめぐる問題の解決策について、具体的な方策が話し合われるまでにはいたっていない。

 尹政権は韓国内の世論もにらむ必要がある。元徴用工の支援団体はバイデン氏の訪韓を前に記者会見し、「強制動員の歴史を解決し、被害者の人権救済のために迅速な判決の履行を求める」と主張。尹政権に対し、米国の圧力で日韓関係の改善を急ぎ、安易な妥協をしてはならないと求めた。(ソウル=園田耕司、鈴木拓也)


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    箱田哲也
    (朝日新聞論説委員=朝鮮半島担当)
    2022年5月22日1時12分 投稿

    【解説】 佐橋さんもコメントされているように、韓国がバイデン氏の「思惑に乗った」というほど一方的な構図ではなかったのではないか。尹錫悦政権の外交安保統一分野の布陣をみると、その意図が非常にわかりやすいが、軍事的な安全保障に関してはむしろ、韓国側が強く要望した内容が共同声明に盛り込まれた、と言ってもよいだろう。  尹政権の布陣には、北朝鮮がやめようとしない軍事挑発を、米韓軍事同盟という圧倒的な「力」で対抗し、封じ込めてみせるという強い意思がにじむ。さしずめ、2008年から始まった李明博政権がとった対北朝鮮政策の第2ラウンドの様相を呈している。だが問題は北朝鮮に対して、それが抑止力たり得るのか、である。  事前に強い警戒感が漂った北朝鮮の軍事挑発は、米韓首脳会談まではなかった。最大の不確定要素である新型コロナウイルスのまん延が深刻で、それが影響しているのか。いずれにしても、朝鮮半島の緊張の高まりを暗示させる首脳会談となった。

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