検察が警戒する「検審バック」 桜前夜祭 不起訴不当の内幕
検察審査会の判断に、検察当局が神経をとがらせている。捜査のやり直しを迫り、強制的に起訴できる権限も持つため、「検審バック」と呼んで警戒せざるを得ないのだ。安倍晋三前首相(66)の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭を巡っても、存在感を増す審査会と東京地検特捜部の「見えざる攻防」が展開されていた。
「入念捜査」の隙突く
「そこを突いてくるのか」。前夜祭を巡り、東京第1検察審査会が議決を公表した7月30日。検察幹部の一人は取材に思わず漏らした。議決は、安倍前首相の政治資金規正法違反(不記載)容疑の不起訴を「相当」とした一方、公職選挙法違反(寄付の禁止)容疑の不起訴を「不当」とした。捜査の本命を不記載容疑に据えていた検察にとって、隙(すき)を突かれた指摘だった。
前夜祭は2013~19年に東京都内の高級ホテルで開催され、前首相の地元・山口県の支援者が会費5000円で多数参加した。ホテル側への捜査で、16~19年開催分の会費収入が約1157万円だったのに対し、支出は約1865万円に上ったことが判明。後援会の代表者だった当時の公設第1秘書(62)=辞職=は任意の事情聴取に、差額の約708万円を後援会側で補塡(ほてん)したことを認めた。収支計約3022万円は後援会の政治資金収支報告書に記載されておらず、特捜部は不記載で、実質的な会計責任者だった元秘書の刑事責任を問えると判断した。
ただし、安倍前首相本人への処分は頭を悩ませた。政治資金規正法は政治団体の会計責任者の罪を問うことを想定しているが、政治家本人も不記載や虚偽記載の共謀があれば立件対象となる。安倍前首相と元秘書の共謀が焦点となった。
旧民主党元代表の小沢一郎衆院議員(79)の政治資金規正法違反事件でも、虚偽記載を巡る小沢氏と秘書の共謀が問題となった。小沢氏が関与を否定する一方、当時の秘書は「小沢氏に報告し、了承された」と認めた。検察は、秘書の供述は具体性が乏しいなどとして小沢氏を不起訴とした。だが審査会は、秘書の供述から小沢氏の供述は「信用できない」として、強制起訴につながる2回目の「起訴相当」議決を出した。刑事裁判では無罪が確定したが、小沢氏は長期間、被告の立場に置かれた。
今回の事件では、安倍前首相の元秘書は「安倍前首相には会計処理を報告していない」と供述したとされる。起訴への「積極証拠」があった小沢氏の事件と比べても、共謀を立証するのは難しかった。
不起訴の方針が定まる中でも、特捜部が最後にこだわったのが、安倍前首相への事情聴取だった。09年に強制起訴制度が導入され、捜査を尽くさずに不起訴にしたと審査会から判断されれば、検察に再捜査を迫る議決が出る恐れがある。政治家の関わる事件では、審査会が不起訴に納得する証拠をそろえる意味でも、政治家本人を事情聴取するのが一般的になった。小渕優子衆院議員(47)を不起訴とした政治資金規正法違反事件でも、この方針は徹底され、審査会の判断は「不起訴相当」だった。
安倍前首相は20年12月、特捜部の任意聴取に「秘書からの報告はなかった」と説明した。首相経験者の聴取は異例だった。結果、共謀を示す証拠は一貫して得られず、特捜部は元秘書のみを略式起訴し、安倍前首相は不起訴とした。入念に固めた捜査のはずだった。
特捜部の思惑通り、審査会の議決は、不記載について「共謀した事実を認定することは困難」と特捜部の捜査を支持した。ところが、公選法違反容疑の捜査が不十分だとし、捜査を検察に差し戻した。
「寄付の禁止」で立件するには、会費を上回る食事などの提供を受けていた認識が参加者にあったと立証する必要がある。特捜部は、参加者のうち約30人に事情を聴き、いずれも認識はなかったとして、立件には早々に見切りをつけた。
だが、議決はこれを「寄付の成否は一人一人判断されるべきだ」と批判した。
前夜祭は、19年だけでも有権者200人以上が参加したとみられる。特捜部は再捜査で、事情聴取の範囲の再検討などを迫られる。
「政治とカネ」に厳しい視線
議決は付言で「首相だった者が『秘書がやったことだ』と言って関知しない姿勢は国民感情として納得できない」と、安倍前首相の姿勢を批判した。有権者が審査員となる検察審査会は、「政治とカネ」に厳しい視線を注ぐ傾向がある。
小沢氏を2回目の起訴相当とした起訴議決(10年9月)は、審査会制度を「容疑不十分として検察官が起訴をちゅうちょした場合、国民の責任において刑事裁判で黒白をつけようとする制度」と述べた。この事件で審査会に法的な助言をする審査補助員を務めた吉田繁実弁護士は「審査員は真剣に資料を読み込み議論していた。国民の目には、検察は政治家の事件に消極的と映っているのではないか」と指摘する。
近年では、市民団体の告発を検察が不起訴とし、告発団体が不服として審査を申し立てる例が多い。
菅原一秀前経済産業相(59)を不起訴とした公選法違反事件でも審査会は今年2月、起訴相当議決を出した。議決は「検察官は、国会議員はクリーンであってほしいという国民の切なる願いに十分配慮すべきだ」と指摘。東京地検は再捜査で一転して略式起訴し、罰金40万円、公民権停止3年の略式命令が確定した。
安倍前首相についても、検察内に「不起訴不当はあり得る」との読みはあった。だが、特捜部経験がある検事は「再捜査で参加者全員に寄付の認識を聞いたとしても、不起訴が変わることはないだろう。法律家と『民意』の間に埋め切れない溝がある」と困惑する。
検察審査会制度に詳しい大出良知・九州大名誉教授(刑事訴訟法)は「審査会は密室で行われている検察の権限行使をチェックするシステム。政治的な事件の申し立てが増えているのは、検察が市民の関心に十分応えていないことの裏返しだ。立件できない場合、検察はきちんと理由を説明する必要がある」と指摘する。【志村一也、二村祐士朗、国本愛、松尾知典】
検察審査会
有権者から無作為に選ばれた審査員11人が非公開で検察の不起訴処分について審査する。6人以上がさらに捜査が必要と判断すれば「不起訴不当」、8人以上が起訴すべきだとの意見なら「起訴相当」の議決となり、いずれも検察が再捜査する。2009年の法改正で、起訴相当議決後の再捜査で検察が再び不起訴としても、2度目の審査で8人以上が「起訴すべきだ」と判断すれば起訴議決が出され、裁判所が指定する検察官役の弁護士が強制的に起訴する。
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