宅間事件後、後を絶たない凶悪事件:朝日ディジタルかrs引用しています。
03年8月28日、大阪地裁での判決。「被告人を死刑に処する」。裁判長の言い渡しの声が法廷に響いた。判決は「自己中心的で他人の痛みを顧みない著しく偏った人格傾向の発露した犯行」と指摘した。弁護団は控訴したが、元死刑囚が取り下げ、死刑が確定。
04年9月に死刑が執行された。
「悪かった」という言葉は、最後まで聞けなかった。
後を絶たない殺傷事件
公判がまだ続いていた当時。元死刑囚の生い立ちや境遇が明らかになると、弁護団に手紙が届き始めた。
「あなた(元死刑囚)は今まで生きて本当に誰かに愛されたことがありますか。私もその実感がない」
「世の中に腹を立てることはあなたと一緒です。でもあなたは良くなかった」
自らの境遇に苦しむ人や「自分の周囲に(元死刑囚と)似た気質の人がいる」とつづる人からだった。元死刑囚への金銭的な支援を申し出る人もいた。戸谷弁護士は「不器用な生き方しかできないような人が一定数いて、周りの人たちも悩んでいた」と振り返る。
多くの人が殺傷される事件は後を絶たない。
東京・秋葉原で08年に7人が犠牲になり、10人がけがをした無差別殺傷事件。最高裁判決は被告について「派遣社員として職を転々とし、孤独感を深めていた」などと指摘した。
昨年12月には、大阪市のクリニックで放火殺人事件が起き、26人が犠牲になった。容疑者の男(昨年12月に死亡)のスマートフォンの電話帳の登録はゼロ。事件の約1年前に銀行口座の残高はゼロになっていた。「死ぬときくらい注目されたい」といった内容をスマホで検索、閲覧していた。
戸谷弁護士は「今の世の中が決して幸せではないということの表れだ」と受け止める。
かつて、元死刑囚に伝えたこと
宅間元死刑囚の判決を受けて発表した声明で、弁護団はこう記した。
「社会の側が学ぶべき点が少なくないことを痛感した」
真意は。社会はどう対応したらいいのか。
「特に教育の力が大きい。社会的な教育、家庭教育も含めて多様な生き方があるのを示して、たとえ失敗しても絶望しなくてもいい、道がまだ残っているよと導くような社会じゃないと、本当に安全安心な社会だとはいえないのではないか」
かつて、元死刑囚に伝えたことがある。
「いろんな可能性が君の前にもあった」
他の人を犠牲にしてでも自分の欲求を満たそうとした考えは間違っていた。そのことに気づいてほしかった、との思いは消えない。(瀬戸口和秀、小若理恵)
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〈大阪教育大付属池田小事件〉2001年6月8日午前10時過ぎ、包丁2本を隠し持った宅間守・元死刑囚(04年9月に死刑執行)が、校内に侵入した。校舎1階の四つの教室や廊下で児童らを襲い、2年女児7人と1年男児1人が死亡、児童13人と教諭2人が重軽傷を負った。事件を機に、学校の安全を見直す動きが全国に広がった。
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〈とだに・しげき〉1945年生まれ。70年に弁護士登録。大阪弁護士会所属で、同弁護士会刑事弁護委員会元委員長。
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